宮城リョータは三井寿という男と付き合っている。高校の一年先輩で、紆余曲折はあったが一年間同じバスケットボール部のガードポジションでコンビを組んだ仲である。
来月で、もう三年になる。三井が大方の悲観的な予想を覆して大学の推薦を勝ち取り、南東北の某県に移り住むことになって、一時は遠距離恋愛も経験した。けれど翌年すぐに宮城が彼のあとを追うように同じ大学へ進学したので、いまではほとんど同棲に近いような状態で狭苦しい1DKのアパートに暮らしている。
追いかけるのは、いつだって宮城のほうだ。
三井が宮城を追いかけたのなんて、高校時代、三井がちょっとばかりおおきく道を踏み外していっぱしの番長を気取っていた頃に、当時はまだ生意気盛りだった宮城をシメようと追いかけまわしていたときくらいのことだった。
いまではその原因がなんであれ、喧嘩をすれば謝るのは決まって宮城のほうである。頭に血をのぼらせたままアパートを飛び出した三井を探して、コンビニやレンタルビデオ屋、ファミレス、チームメイトの部屋、アルバイト先の居酒屋と顔を出して周り、繋がらない電話をかけ続け、読まれもしないメッセージを送り続ける。不毛な献身だ。
だから、今日ばかりは絶対に謝らないと決めた。籠城戦の構えだ。
掛布団に包まって壁を睨みつける宮城に、三井もなんどか声をかけた。おい、とか、どうしたんだよ、とか、なんとか言えよ、とか。
そこに「ごめん」のたった一言があれば、宮城だってこれほど頑なにはならなかったのだ。ごめん、俺が悪かった。と、たまには彼のほうから謝って欲しかっただけ。自分ばかりが彼を追いかけ、愛しているから俺のところに帰ってきて、と頭を下げて懇願するのは不公平だと思っただけだ。
それがどうして、こんなことになったのだろう。
狭苦しいはずの部屋がひどく広々として見え、アパートの前を過ぎゆく学生たちの笑い声がやけに耳に障る。
三井はなにも言わずに出て行った。いつものように子供じみた悪態をつくことも、ソファに置いたクッションにあたることもせず、ただ静かに出て行った。
ずっと知っていた。三井がああ見えてじつは些細な事を人一倍気に病みがちなタイプであることも、恐ろしく高いプライドが邪魔をして恋人らしい甘えや独占欲を口にできずにいることも。宮城が呆れ混じりに彼を許すたび、不安に強張った頬が安堵に綻ぶことも。
もういいだろう、とため息をつく。
男の意地とかプライドとか、そういうのは三井の専売特許だ。宮城はハイハイと笑ってそれを受け止めなくてはならない。そうしなければ三井を失ってしまうというのなら、宮城は意地もプライドも男の沽券も、なんだって簡単に捨てられる。
それが宮城の愛だ。
馬鹿な野郎だと笑われたって構わない。あの人一倍面倒臭くて世話の焼ける男を愛してしまった時点で、もう相当な馬鹿野郎なのだから。
「――もしもし、三井サン。いまどこにいんの?」
2020.09.30