「聞いた話なんだけどさ」
と、バーンズが不意に切り出す。サプレッサー付きの狙撃銃から放たれた麻酔弾が、見張り役の男を路地のゴミ箱へ沈めた。サムは、眼下に横たわるジェームズの平たい尻を見下ろしながら片手間にその問いを聞いていた。デジタイズ著しい昨今では、作戦そのものより、作戦前の装備の動作確認に費やす時間のほうが長いことさえある。
「誰に」
手首に取り付けたスマートデバイスを再起動しながらそう問い返すと、答えが返る前に二発目の銃声鳴った。パスン、と乾いた高音が響き、二人目の見張り役が段ボールの山へ沈む。
「ディミトリ」
「ああ、あの愛想無しか」
「キエフの生まれらしい」
「ウクライナ人はみんな無口なのか」
「いいや。あいつ、英語が嫌いなんだって」
「へえ」
三発目と四発目の銃声が鳴る。そろそろ片付いたか、と爪先で尻をつつけば、間髪入れずに五発目の銃声が鳴った。
「……で、なにを聞いたって?」
ため息と一緒にそう尋ねると、ジェームズはむっつりと唇を尖らせて「お前ってさ」と拗ねたように言う。
「人気あるんだって?」
「誰に」
「エージェント連中とか、出入りの業者とか」
「へえ、嬉しいね」
素直に喜びをあらわにしたサムを、ジェームズの恨めし気な視線がつらぬく。その剣呑な色の瞳を意外な気持ちで見返した。
「嫉妬か?」
男としてか、恋人としてか。どちらにせよ愉快なことには変わりがないが、後者であればなお愉快だ。サムの問いを黙殺したジェームズが、ストックに頬を押し付けたまま乱暴な手つきでボルトを引く。
「……ちゃんと断ってるよ」
若干の含みを持たせてそう続けると、ジェームズの機嫌は露骨に傾いた。なるほど、後者だったらしい。
「なにを」
「食事の誘いとか、そういうの」
「……ふうん」
パスン、と六発目の銃声が鳴る。どうも、相当拗ねているようだ。
「ちゃんと断ってるし、言ってる」
「なんて」
「パートナーがいる、って」
七発目の銃声。ぱちぱちと瞬かれた両目。
「……そうか」
「そうだよ」
「……ならいい」
相変わらずむっつりとしたままの声には、けれど隠しようのない喜色が滲んでいた。いつも飄々と達観したように振る舞っているが、案外、そうでもないのだ。
この調子でいけば、計画よりはやく制圧が完了しそうである。なによりだ。
END