CPなし・ほんのり流三
卒業後の三井・赤木・牧・藤真によるインハイ観戦
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賭けるか、と口角を吊り上げた三井に、赤木が「馬鹿モン」と拳骨を落とす。
「イってぇ! このクソゴリラ……っ!」
「誰がゴリラか!」
「お前以外に誰がいるっつうんだ」
「おい、よせ。ただでさえ目立つんだ」
苦笑まじりに割って入ったのは、牧だ。その後ろから藤真が「俺、青森代表に三千円」と涼やかに言った。
「てめー、湘北が負けるってか!?」
「あのなあ三井。全員で湘北に賭けたら、賭けにならないだろ」
藤真の呆れたような物言いに、牧が笑う。
「確かにそうだ。じゃあ俺も青森に千円」
「もう一声!」
さっそく手のひらを返したらしい三井が、口元に手を当てて囃し立てた。自分は当然湘北に賭け、すっかり勝つ気でいるのだろう。
宮城率いる湘北高校の、記念すべきインターハイ初戦だ。昨年の活躍と全日本ジュニアの肩書を引っ提げた流川のおかげでかなりの注目を集めているようで、一回戦にしては観客席もずいぶんと賑わっている。やや離れたところに座っていた女子生徒の集団が、四人の賑々しいやり取りを横目に見てくすくすと忍び笑いをこぼした。
「おい、三井。いい加減にせんか」
笑い声に気付いたらしい赤木が、窘めるように三井の肩を掴む。
「相変わらず頭がかてーなあ、お前は」
「お前こそ、それでよく進学出来たもんだ。もう一年高校生をやっとったほうがよかったんじゃないか?」
「ああ?」
「はは、確かに」
藤真が大口を開けて笑い、牧もつられてくつくつと肩を震わせた。
「くそ、おめーらまで笑うなっつの」
「悪い悪い。――お、来たぞ」
そう言って牧が指さした先には、鮮烈な赤い坊主頭がある。桜木花道だ。その後ろにお目付け役の宮城が続き、遅れて、ジャージを肩にひっかけた流川がゆっくりと現れる。
途端、客席がにわかにさざめいた。
「流石全日本。すごいもんだ」
品定めをするように腕組みをした藤真が、皮肉っぽく眉をあげて言った。
「ああ。ほとんど流川目当ての客なんじゃないか?」
牧が冗談とも本気ともつかない調子で苦笑まじりに返す。日に日にその版図を拡大する流川楓親衛隊の存在は、いまや神奈川大会の名物と言っても過言ではなかった。
一方当の流川といえば、客席のさざめきもスコアラーたちの値踏みするような視線もまったく意に介した様子はない。誰かを探しているのか、マイペースに観客席へ視線を巡らせている。
「流川ーっ!」
三井が叫んだ。こんなときでも冴え冴えとした流川の黒い瞳が、吸い寄せられるように三井の姿を捉える。
「負けんじゃねーぞ!」
その言葉に、流川の唇が不敵な弧を描いた。そしておもむろに高く掲げた右の拳を、三井に向かって力強く突き出す。
「とーぜん」
と、音もなく唇が動いた。
「頼もしいな」
応えるように拳を突き出した三井の横で、赤木がにやりと笑う。
「決勝まで、ちゃんとスケジュール空けとけよ」
三井も誇らしげに笑い、そう答えた。
「……あれからもう一年経つのか」
牧が感慨深そうに呟く。
「俺の場合、二年だな」
藤真が肩を竦めて飄々と言った。けれどそれは表面上のことだけで、瞳だけは忘れがたい悔しさを押し殺すように揺れている。
どれだけ熱心に競技へ取り組んでも、全国の舞台に立てる人間はほんの一握りだ。それぞれにそれぞれの思いがある。インターハイという舞台を思うとき、栄光の一瞬を思い出すものもいれば、屈辱の記憶や羨望に胸を焦がすものもいて、今年のインターハイが終わった時、誰の心にどのような感情が齎されるのか、それは、神のみぞが知ることだ。
「湘北に一万!」
三井が勝ち気な顔で叫んだ。結局赤木も乗って「俺もだ」と三井の背を強かに叩く。
コートに鮮やかな赤のユニフォームが躍った。今年の夏は、きっと、例年以上に熱い季節になる。そういう予感が、ひとでひしめく客席にまたあらたなさざめきを立てた。
2020.08.06