ワンライお題『夏祭り一緒に行かない?』
すでにくっついてるようなそうでないような、曖昧な感じ。会話多めです。
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「……あー、祭りって今日だったか」
「嫌っす」
「まだなんも言ってねーだろ」
部室のベンチにだらしなく座って棒付きのアイスに齧りつきながら、三井がぶすくれたように言う。がなり立てるような蝉の声が狭い室内に反響して、いっそノイローゼにでもなってしまいそうだった。
部室には、流川と三井のふたりしかいない。関東各地で記録的な猛暑を記録したこんな暑い日――それも、今日は日曜日だ――に長時間の居残り練習、あまつさえ、一対一の真剣勝負を三ラウンドに渡って繰り広げるようなバスケ馬鹿は、さすがの湘北にもそうはいない。
「じゃあ桜木でも誘うか」
「それはダメ」
「宮城」
「それもダメ」
「彩子」
「……もっとダメ」
スピーカーで拡声された不明瞭な声が遠くに聞こえ、三井は「ああもうそんな時間か」と熱に浮かされた頭でぼんやりと思った。
「はじまっちまったじゃねーか」
「なにが」
「だから、祭りだよ祭り」
行ったことねーの、と問えば、流川は首をわずかに傾げて「たぶん」と答えた。
「多分ってなんだよ。このへん地元なんだろ?」
「そうだけど、ガキの頃のことなんか覚えてねー」
流川は汗でごたついたタンクトップを豪快に脱ぎ捨てると、濡れた犬のように頭をぶるぶると振り、鬱陶しげに長い前髪をかきあげて三井を見た。
「そんなもん、行ってどーすんすか」
「夏はやっぱかき氷食いてぇじゃん」
「アイス食ってる」
「アイスはアイス、かき氷はかき氷だろ」
薄らと青く染まった舌をべえ、と出し、「つまんねーやつ」と文句を垂れながらはやくも溶けかかっているアイスを齧った。
「……ったく、マジであちーよな、今日」
オーバーサイズのTシャツの裾をぱたぱたと煽り、赤みを増してきた空を睨みながら悪態をつく。夏は暑いものと相場が決まっていても、それはそれとして文句はつけたくなる。
「あ、そういや、花火って何時からだ?」
「さあ」
「ちょっとは悩めっつの」
「知らんものは知らん」
流川はいっそ潔くそう言うと、替えの白Tシャツを頭から被り、三井の隣にどっかりと腰をおろした。
「ひとくちちょーだい」
「ヤだね」
「ケチ」
「うるせー」
子供じみたおねだりに子供じみた返事をした三井は、へへんと嫌味ったらしく笑うと、残っていたアイスをひといきに平らげ、またへへんと憎たらしく笑ってみせた。
「……大人げねー」
「大人じゃねーもん」
「三年だろ」
「うるせー」
まだわずかにひんやりとした木の棒を咥え、見せつけるようにぷらぷらと揺らす。流川はじとりとした視線で三井を睨みつけ「勝ったのに」と地を這うような低い声で言った。
「二勝一敗。俺の勝ち」
「まぐれだろ、まぐれ」
「奢れ」
「やだね」
「奢って」
「ダメ」
「かき氷、食いてーっす」
「お? 祭りにゃ行かねーんだったよな?」
勝ち誇った顔で顎をあげた三井を、背中を丸めた流川が悔しそうに見上げる。
「……やっぱ行く」
「はは、素直じゃねーの」
「……うるせー」
三井はむっつりと黙り込んだ流川の背中を叩いて立ち上がると、部室の隅にあるゴミ箱に向かって咥えていた棒を放り投げた。
「さっさと支度しろよ」
「うす」
「穴場とか知らねえ? 花火も見てぇんだけど」
「知らねーっす」
「使えねー」
「……俺んち」
「はあ?」
「俺んちの二階から、ちょっとだけ見える」
遅れて付け加えられた「……たぶん」というちいさな声は、背を向けている三井の耳には届かなかったらしい。
「おっ、いいじゃん」
「来る?」
「行く行く」
「……うす」
ちょうどよく閉門時刻を告げる予鈴が鳴り、遠くからはさざなみのような祭囃子の音がかすかに聞こえてくる。
「かき氷だけだかんな」
振り返った三井が、白い歯を見せて悪戯っぽく笑った。その言葉に「ケチ」と短く返して、流川も立ち上がる。それからすぐ大股で歩き出すと、三井を追い越して小走りに駆けだしていった。
なんだ、結局楽しみにしてんじゃねーか。
と、三井は年上らしく微笑ましい気分でいたが、流川の思惑に気付く様子はない。かき氷以外にもたっぷりと奢らされるし、流川の家から花火は見えない。ただ、ふたりっきりで熱帯のような夜を過ごすことになるだけだ。
2020.08.19