Should I Stay or/リョ三

 ちょうど会社を出てすぐに電話がかかってきて、画面を見ながらやっぱり来たかと苦い笑みが浮かぶ。
 とはいえべつにその電話に出るのが嫌なわけではなくて、宮城は四コールほど泳がせてからようやく画面に指を滑らせた。
「はいはい」
『出んのおせーよ』
「いま外なんすよ」
『あっそ』
 自分からかけてきたくせに、二言目にはこれだ。いつものことだから、いまさら怒りも呆れもしない。
「――で、なんの用です? 三井サン」
 用件を切り出すのはいつも宮城の仕事だ。お互い社会へ出てもう十年は経つというのに、高校時代の上下関係をそのまま映した三井の傲岸不遜ぶりは治る気配すら見せない。
『なんの用もクソもあるかよ。暇だろ?』
「こっちのセリフっすよ。アンタも暇だね、毎年毎年」
『……うるせえ』
「拗ねんなって。店どうします?」
『合流してからでいいだろ。いつもんとこな』
「りょーかい」
 具体的なことはなにも決まらぬまま電話が切れる。これもいつものことだった。いつもの時間にいつもの場所で。付き合いの長さと反比例するように言葉数が減り、比例するように暗黙の了解が増えた。
 通りでタクシーを捕まえ、目的地を告げる。十分も経たずに降りて、あとは歩いた。
 七月の最後の一日は、三井と過ごす。
 これは、高校時代から続く奇妙な習慣だった。同じように、三井の誕生日も二人で過ごす。祝いの言葉もプレゼントもない。どちらかに彼女がいる年は、お互い事前に断りの連絡を入れあった。けれど、埋め合わせのために改めて席を設けることはしない。考えれば考えるほど奇妙な習慣である。
 それでも、いつしか七月の最終週だけはなんとしても予定を空けておくようになった。五月の第三週もそうだ。明文化された約束があるわけでなし、よくよく振り返ってみればたったの一年にも満たない時間を同じ高校の同じ部活で過ごしただけの間柄だ。そのうち自然と連絡を取り合わなくなり、この奇妙な習慣も忘れ去られていくものと漠然と思っていた。それがどうだ。三十路を越えていまだにお互い独り身のまま、毎年毎年プレゼントもない寂しい誕生日をふたりっきりで過ごしている。
 これって一体なんの集まりなんすかね。
 と、尋ねてしまえば最後、きっと三井は二度と宮城を酒にも食事にも誘わなくなるだろう。あの男の意地っ張りは筋金入りだ。そうやって決着を先送りにしているうちに、年月だけが刻々と過ぎた。
「――おせーよ」
 待ち合わせ場所に着くと、電話口と同じ文句が宮城を出迎えた。不機嫌そうに真っ直ぐな眉を吊りあげ、行儀悪くスラックスのポケットに両手を突っこんだ三井が駅前の花壇の淵に腰かけている。高校時代からまるで変化のないその言動と立ち姿に、宮城の頬へふっと苦い笑みが浮かんだ。
「これでも定時で抜けてきたんすけどね」
「あっそ。で、どこで飲む?」
「あそこは? 一昨年のアンタの誕生日んとき行った店。あそこ美味かったよね」
「あー、沖縄料理だっけ?」
「そうそう」
 気安く頷き返しながらスマートフォンの画面を見る。なんの変哲もない七月三十一日の文字が、意味深げな顔をして宮城のことをじっと見返していた。

2020.09.30