朝/流三

 浮きあがるように覚醒した意識に従って、そのままのんびりと瞼をもちあげた。朝だ。昨晩おざなりに閉めたカーテンの隙間から、白い日差しが柔らかく差し込んでいる。
 流川がタオルケットのしたで身体をよじると、腕の中にある体温が冷えた二の腕にじんわりと馴染んだ。どうも、昨晩はエアコンを効かせすぎたものらしい。
「先輩」
 顎のすぐしたにあるつむじに鼻先をうずめ、寝起きの掠れた声でそっと呼びかけた。三井の髪は柔らかくて、すこし細くて、染めなくても微かに茶色がかった色をしている。そして、今朝は流川と同じ匂いをしていた。
「……んん」
 三井がむずかるように鼻を鳴らし、覚醒の気配を見せる。
「先輩、起きて」
「……あと十分」
「腹減った」
「あと五分」
 三井と付きあいはじめてから知ったことだが、彼は流川以上に朝が弱いらしかった。ただの先輩後輩だった頃にはそうした弱味をおくびにも覗かせなかった彼の、おさなげで舌足らずな寝起きの声が鼓膜を心地よく撫でる。
 室内に差し込む日差しが、細かな埃の粒を弾いてきらきらと光った。そのきらきらしい光の粒の中で、三井がゆっくりと瞼をもちあげる。
「……はよ」
 三井の眠たげな丸い瞳が流川を映し、三日月のかたちに変わる。普段は焦茶色をしている虹彩が、今朝はもうすこし緑みがかった淡い色合いに見えた。
 両腕を三井の腰にまわし、その体を強く引き寄せる。
「あんだよ、朝っぱらから」
 三井が喉を鳴らして笑い、流川は、その笑い声ごと独り占めするように彼の唇をふさいだ。流川が抱き込んで眠っていたせいで、三井の体はどこもかしこも溶けそうなほど温かかった。
 カーテンの隙間から差し込む日差しがふたりの体を薄く照らす。
 流川はタオルケットのしたで長い脚を持ちあげると、体温を分けあうように三井のそれと絡めあわせた。暖かい朝だ。このまま再び眠ってしまいそうなくらい、暖かい朝だった。

2020.08.27

8月 27, 2020