6

 水戸の家の風呂は、昔ながらのバランス釜というやつだった。鉄男の部屋で見たことがあったから、使い方は分かる。そう正直に告げたら、水戸はやや機嫌を損ねたようだった。その名前は二度と聞きたくない、と、なにを邪推したのか水戸は低く唸るようにそう言った。その悋気を露わにした子供っぽい態度に、ようやく先ほどの公園での出来事が夢や幻のたぐいではないという実感が湧く。
 雨と涙でぐずぐずになった顔に温くて弱いシャワーを浴びせていると、建付けの悪いサッシががたがたと音を立てて開いた。
「ね、俺も入れて」
 ほどけたリーゼント頭をわずかに傾げ、水戸が甘えたように言う。濡れて艶を増した黒髪が色の白い額へ落ちて、そのしどけない感じが妙に色っぽく見えた。
「よせよ、狭ェだろ」
「悪かったね、狭ェ家で」
「そういう意味じゃなくて……」
 慌ててそう言い募ると、水戸はふっと笑って「分かってるよ」と囁くように言った。
「狭いくらいのほうがいいじゃん、くっつけるし」
「うわ、ヤラシー……」
「急に照れんなよ」
 照れてねえわ、と、どぎまぎしながら言い、持っていたシャワーのヘッドを水戸の頭に向ける。わっ、と短い悲鳴を上げた年下の男を上から見下ろし、その額にそっと唇を落とした。頭ひとつ分も背の低い男と付き合うのははじめてだったから、ひどく新鮮に感じる。
 水戸はその口付けをなにかの合図と思ったのか、下から噛み付くように唇を合わせてきた。薄くて柔らかくて、ほんの少しだけカサついた唇。手にしていたシャワーヘッドを壁のホルダーにかけ、両腕を彼の腰に回した。スポーツをしているわけでも、していたわけでもなさそうなのに、全身がすっきりと引き締まっている。そういうところは手放しで好みだなと思った。猫科の肉食獣のような、柔らかさとしなやかさのある逞しさだ。
 水戸の口付けには、手慣れているなと思わせる巧みさがありながら、年齢相応の初々しさもあった。ときおり挟まれる苦しげな息継ぎや乱暴な甘噛み、三井の体をかき抱く腕の思いつめたような荒々しさ。はじめはそれを微笑ましく受け止めていた三井も、次第に彼の熱量にひきずられるように息を荒くしていた。つい逃げ腰になって身をよじった拍子に兆している水戸のそれが腿に当たり、反射的に喉がごくりと鳴る。すこし驚いてもいた。
「……お前さ、男とシたことあんの?」
 やや強引に唇を離し、水戸の鼻先で恐る恐るそう尋ねる。水戸は口付けを中断されたことへの不満と、不躾な問いへの不快感を露わにしながら言った。
「ないよ。……正直聞きたくねえしなんとなく予想つくけど、三井サンは?」
「そりゃあ、あるよ。俺、男しか好きになれねえって言ったじゃん」
「どこまでいったの」
「どこまで、って……」
 それはもちろん、最後までだ。とはいえはっきりとは言い難く、三井は半歩ほど後退りながら「言わせんなよ」と口ごもった。それを簡単に許す水戸ではない。スイッチが入った彼の冷酷さと獰猛さは、痛いほど身に沁みて知っている。
「言えよ。そうやって相手に甘えて逃げんの、アンタの悪い癖だよ」
 温度のない水戸の声が、湯気にけむる狭い室内に響いた。心臓がばくんと音を立てて跳ねる。奇妙なことに、甘さをはらんだ慄きも同時に脊椎を駆け上っていた。三井は感じたことのない感覚に動揺を隠せないまま、ほとんど反射的に口を開く。
「ケツ使って、最後まで……。俺、そっちじゃまだイけたこと、ねえ、けど」
 言いながら、これまで経験した性行為をぼんやりと思い出していた。
 はじめての相手のときは、三井がまだ体の出来上がっていない子供だったせいか、最後まではされなかった。次の相手は鑑別所あがりだという不良仲間で、かなりしつこく口説かれて付き合ったのに、その男とも結局挿入までは至らなかった。そのあと、その男に紹介された金回りのいいサラリーマン風の男と寝るようになって、そのときにやっと挿入を伴うセックスを経験した。正直に言って、気持ちよくはなかった。けれど、バスケを失って自暴自棄になっていた三井にはそのくらいがかえって丁度よかった。
 その男との関係が鉄男にバレて、どういうわけか最終的に鉄男とも寝た。鉄男との関係が一番長く続いたけれど、恋人同士のそれとはとても言い難い、衝動的で殺伐としたセックスがほとんどだった。鉄男にしてみれば、酒のツマミや、喧嘩のあとの余興のような感覚だったのだと思う。
 セブンスターの匂いを嗅ぐと、いまだにあのときの息苦しさを思い出す。鉄男のことは、たぶん、ちゃんと好きだった。気味悪がられたくなかったから、そういうたぐいのことは一切口に出さなかった。だからはじまりもしなかったし、きちんと終わらせることもできなかった。
「……水戸?」
 恐る恐る名前を呼ぶと、短く鋭い舌打ちだけが返ってくる。急に怖くなって窺うようにその顔を覗きこむと、再び噛みつくように唇を塞がれた。
「ん……っ!」
 体格のわりにごつごつとした指先が三井の尾てい骨をなぞり、そのさらに下にある窄まりへと伸ばされた。久しぶりの感触に、全身がひくりと痙攣する。
「あれ、怖いの? 慣れてんでしょ?」
 三井の怯えを揶揄うようなその口調に、恐怖と反発心が同時に沸き上がった。主導権を取りかえせるとは思っていないが、このまま怒りに任せて乱暴にされたのでは三井も気が済まないし、体も持たない。三井は覚悟を決めるように軽くかぶりを振ると、射るようにこちらを見据えてくる冷ややかな黒い双眸を睨み返しながら、ゆっくりと膝を折って水戸の足元に跪いた。
「……なに、三井サン。大胆だね?」
「うるせぇな。一発ヌいてやるから、ちょっと頭冷やせ」
 そう言って、目の前の屹立に唇を寄せる。根元を支えるように太腿の付け根へ両手を添えると、湿った肌のしたにある筋肉の緊張が指先に伝わった。そのままおおきく唇を開き、舌を広げて水戸の分身を迎え入れる。
「ヤバ。三井サンのナカ、あったかい……」
 水戸はその感触を噛みしめるように言い、両手を三井の後頭部へ添えた。強引に喉を使われるのかと一瞬身構えた三井を宥めるように、水戸の指がゆっくりと髪の間を滑る。その指先が不意に耳たぶを掠め、三井の喉が快感に低く鳴った。
「耳、きもちーの?」
 水戸の舌足らずな問いかけにちいさく頷きながら、舌の上のモノを口蓋に擦りつける。粘膜同士が触れあったところからさざなみのように快感が広がり、腰が不随意にひくんと震えた。そのはしたない反応を誤魔化すように頭を引き、じゅう、とわざと大袈裟に音を立てて吸い上げる。
「うわ」
 慌てたような水戸の声に気を良くし、三井はそのまま頭ごと前後させて咥内のそれを扱いた。舌の上にじわりと苦いものが広がり、頭を這っていた手に力が籠る。そのままぐっと髪の毛を掴んで頭を引っ張られ、三井はなすがままに水戸の分身を開放して顔をあげた。
「……あんだよ」
「ちょっと待って、もうちょっとゆっくり……」
 そう言って深呼吸をはじめた年下の男が愛おしくて、自然と頬が緩んだ。悋気を剥き出しにして三井を詰ったかと思えば、単調な口淫に追い上げられて慌ててもみせる。純粋に、可愛いな、と思った。男に対してこんな気持ちを抱いたのは、生まれて初めてだ。
「一発ヌいてやるっつったろ」
 切羽詰まった顔を上目遣いに見上げながら苦笑気味に言うと、水戸は憮然とした表情でぶつぶつと言った。
「だって、もったいないじゃん。まさか、あの三井サンが尺ってくれるなんて思ってなかったし」
「バァカ、なんべんでもしてやるって。……付き合うんだろ? 俺たち」
 三井のその言葉に、水戸が驚いたような顔をして目を瞬く。
「……付き合って、くれんの?」
「その、つもり、だけど……」
 違ったのか、と語尾がだんだん細くなってゆく。なんとなく気まずくなって俯かせた顔を、水戸の両手が挟むように包んだ。それから、妙に改まった顔でじっと見つめられた。水戸の黒い瞳に、情けない顔をしたびしょ濡れの男が映る。
「俺のこと、好き?」
「……好きだよ」
 自分でも驚くほど素直な気持ちでそう告げると、そっか、と水戸が噛みしめるように言った。そういえば言っていなかったな、と今更思う。水戸のことが好きだ。たぶん、出会った瞬間から。惹かれまいと思いはじめたころには、もうとっくに手遅れだった。
 頬に添えられていた水戸の手がおもむろに三井の腕を掴み、ぐっと勢いよく引き寄せられた。がつんと歯が当たる、勢い任せのたどたどしいキス。キスをしながら立ちあがって、濡れた体のまま水戸の自室へ転がり込んだ。
「畳、濡れちまう。……布団も」
 三井は畳敷きの室内へ踏み入る前に戸惑いながらそう言ったが、体格のわりに太い水戸の腕に抱きすくめられ、抵抗もできないまま布団のうえへ引き倒された。
「いまさらそんな処女みてえなこと言わねーで」
 布団のうえに仰向けで転がされ、囲うように覆いかぶさられる。たったそれだけのことで、下腹部がひくんと疼いた。
「……なあ、シャワー止めたっけ?」
 年下の男にすっかりいいようにされているのがなんとなくいたたまれなくなって、わざと茶化すように明るく言う。水戸は短い眉をぐっと顰め、呆れたようにおおきなため息をついた。
「止めたよ。……あのさぁ」
「わ、わあってるよ。なんか濡らすもんねえ? ローションとか、クリームとか」
 三井の問いに、水戸が一瞬考え込むように動きを止める。それからすぐバネのように跳ね起き、部屋の隅にある折り畳み式の卓袱台からなにかを取って三井のほうへ投げて寄越した。
「それでいい?」
 パッケージを見れば、それは無香料の安いハンドクリームだった。
「……前にさ、ファミレスで皿洗いのバイトしてた時に買ったんだよ。洗剤が強かったんか、すげえ手ェ荒れちゃって。あかぎれっつうの?」
 女が置いていった物じゃない、ということを暗に伝えたいのだろう。いつにないその饒舌さがおかしくて、思わず笑みがこぼれる。それを目ざとく見咎めた水戸が、再び覆いかぶさるように三井の顔の両脇に手をつき、不機嫌そうに眉を寄せて言った。
「なに笑ってんの」
「なんでもねえよ」
 長い前髪の下から、恨めし気な視線が覗く。その視線に視線を絡めたまま、ハンドクリームのキャップをぱちんと開けた。半透明のクリームを右手の指先にたっぷりと取り、ボトルのほうはそのまま横へ放り投げる。
 ふ、と短く息をはいて右手を滑らせ、固い窄まりへ指を沈めた。バスケ部に復帰してからはずっと特定の相手もいなかったし、自分で慰めることもほとんどしていなかった。痛みを誤魔化すように左手で前を触りながら、中指、人差し指と順に奥へ押し込んでいく。体温で緩んだクリームが筋を作ってシーツに流れた。
「……うっわ」
 エロ、と水戸が呟く。うるせえ、と息のあがった弱弱しい声で噛みついた三井に「煽ってんの?」と水戸が笑った。
「三井サンがエロ過ぎて、俺、挿れる前にイっちまいそう」
「早漏かよ」
「うん。もう早漏でもなんでもいいから、アンタん中でイきてぇ」
 ね、お願い、と三井の胸元に額づきながら伝えられたその直截な口説き文句に、みぞおちのあたりが苦しいくらい痛んだ。そのまま動物のマーキングのように胸元へ顔を擦りつけられ、ごつく出っ張った鎖骨を甘噛みされる。
「……あのさ、水戸」
「なに?」
 と、呼べば無防備にこちらを向くその顔があまりに愛おしくて、左手で目の前のちいさな頭を掴み、思い切り引き寄せた。「わ」のかたちに固まったままの下唇へ噛みつき、ぐっと上体を起こして体重を乗せる。ルール無用の喧嘩ならば水戸のほうが強いに違いないが、体格や純粋な力比べならスポーツマンである三井のほうに分があった。
「……三井サン、やっぱ大胆」
 だろ、と口角をあげ、尻の下に組み敷いた水戸を見下ろす。数少ないアドバンテージである長い両脚で水戸の太腿を挟んで腰を浮かせ、中へ埋めたままだった右の指をずるりと引き抜いた。
「なあ、ゴムあんだろ」
「あっけど……あ、それ。財布ん中」
 水戸の指さす先には、雨でぐっしょりと濡れそぼったジーンズがある。腕を目一杯に伸ばして指先にひっかけ、そのポケットからシンプルな黒の革財布を抜き取った。傷は付いているけれど、長年手入れをしながら使い込んでいるのだろうということがよく分かる。
「どこ入れてんだ?」
「カードんとこ」
「おお、あったあった」
 言われた通りの場所から正方形のパウチを二枚取り、前歯の間に一枚咥えた。それを見せびらかすように揺らしながら、もう一枚を手で破り、自分のそれにゆっくりと被せてゆく。
「……なにそれ。誰に仕込まれたワケ?」
 あいかわらず悋気を剥き出しにしながら、それでもしっかりと勃たせている水戸の正直さが可笑しかった。残りの一枚も口に咥えたまま開封し、今度は水戸のそれにくるくると被せてやる。そして、ぶすくれた顔でその手付きを眺めていた水戸の鼻先へ唇を寄せ「AVだよ、バァカ」と囁くように言った。
「ハァ? だって、アンタ……」
「おめーらもよくやんだろ、観賞会」
「ぜってー嘘」
「嘘じゃねーって。タイトル言ってやろうか?」
 そう言って歯を見せながら笑えば、諦めたような、くたびれたような、複雑な色をしたため息が眼下の唇からこぼれる。その緩んだ唇に自分のそれを寄せ、機嫌をとるように触れ合うだけのキスを重ねながら言った。
「……俺さ、お前が最後だと思ってっから」
「えっ、それ、どういう意味」
「てめーで考えろ」
「ああ? ――って、ちょ、待って」
 と、慌てたように制止の声をあげた水戸を見下ろしながら、ゆっくりと彼の分身を後ろの穴へ飲み込んでゆく。その圧迫感に、思わず鼻にかかった低い呻き声が漏れた。
「……く、うっ」
 その声を聞いた水戸は、両手で三井の尻を鷲掴むと、軽く何度か上下に揺さぶり、自分も腰を前後に揺らして三井を攻め立てはじめた。三井の緩み切った唇から「あっ」と短い悲鳴が漏れ、床についていた腕がかくんと折れる。今度はその腕をとられ、指同士を絡めてしっかりと握り込まれた。
「ねえ、三井サン。俺を最後の男にしてくれるってことで、いいんだよね?」
 三井の言いたかったことを違わず読み取った水戸は、そう言いながら三井の両手を胸元へ引き寄せると、祈るように組んだ手へそっと唇を寄せた。
「お前……次第だけど、な……っ!」
 そんな憎まれ口を叩きながら、固く目を瞑る。そうしないと、喉の奥から込み上げてくるマグマのような感情に押し流されて、どうにかなってしまいそうだった。
 泣きたくない。悲しくなんてない。けれど、涙はいつも勝手に溢れてくる。
「泣かねえで、三井サン。――俺さ、結構重いんだわ」
 水戸はそう言うと、ゆっくりと体を起こして三井の体を抱き締め、とめどなく溢れてくる涙を分け合うように頬を合わせた。
「気に入ったモンはどんだけボロになってもずっと手放さねーし、誰かに貸したり触られたりすんのも嫌。俺ンだって印つけて、ずっとずっと大事にすんの。……ねぇ、そういう男のモンになる覚悟、ほんとにある?」
 その言葉の意味を頭で理解するより先に、体が不随意に震え出した。
 それは、ずっと欲しかった言葉だった。
 誰かに大事にされたかった。愛する以上に愛されたかった。俺のものだ、と言って、縛りつけて欲しかった。簡単に放り出さないで欲しかった。誰かにとっての、特別な、たったひとりになりたかった。
「そーやってメソメソすんのも、俺の前だけにしてよ。甘えんのも、頼んのも、縋んのも、全部俺だけだよ。じゃなきゃ、ほんとに名前書くからね」
「……いーよ、書いても」
「なにそれ。浮気宣言?」
「ちげーっての」
 そう言って、ようやく笑った。頬を寄せあったまま圧し掛かってくる水戸の体重を逆らわずに受け止め、そのまま布団に背中を預ける。
 それからのことは、ほとんど記憶があいまいだ。
 ただ、水戸はセックスが上手い。それだけは間違いなさそうだった。早漏だなんてもう二度と、口が裂けても言えそうにない。正常位で散々ねちっこく攻め立てられた挙句、覚えている限りでもバックと背面座位で一回ずつ達した。たぶんかれこれ二時間は経ったと思うが、いまもまだ正常位で繋がったまま、熾火のような熱をゆっくりと煽られ続けている。
「……なあ、まだヤんの?」
 ゆさゆさと揺すぶられながら問うと、水戸は「んー?」と甘ったるい声で言いながら首を傾げ、三井の肩口に顔を埋めながら言った。
「俺は全然、朝まででもヤれっけど。……あ、でも三井サンって門限あんだっけ?」
「あっけど、今日は大丈夫」
 もともと帰んねーつもりだったし、と半分眠りに足を突っ込みながら続けると、水戸は急にかしこまった顔をして「聞いていい?」と三井の顔を覗き込んだ。
「なんかあったんでしょ。……公園で聞いたときは教えてくんなかったけど」
「あー、そうだっけ……」
 そう言いながら、ぐしゃぐしゃに絡まった後頭部の髪をかき回す。少し前の自分なら、間違いなく「ほっとけ」と突っ張ったところだろう。けれどいまは、自分でも驚くほど素直に思っていることを口に出すことが出来た。たぶん、相手が水戸だからだ。
「今日、ウチに親父がいんだわ。半年にいっぺんくらい金のこととか話しに顔出すんだけど……最近、俺の進路のことで色々おふくろと揉めてるみてーでさ。会いてーかっつったら、会いたかねーわな」
 さっぱりとした口調で吐露された三井の心情に、水戸は案の定「そっか」と答えたきりだった。水戸のそういうところが好きだ。そう思ったから、素直に「お前のそーゆーとこ、好きだぜ」と告げる。水戸も素直に「あんがと」と答えた。
「……あ、こら、テメー」
 三井にかかとで腰を蹴られ「バレたか」と舌を出した水戸は、現金にもまた一回り分身をおおきくさせはじめている。
「次ははじめっから俺んチ来なよ。ウチ、三泊までならオッケーだから」
「三泊まで? なんだそりゃ」
「無制限にすっと、花道のヤローがずっと居座るからね」
 なるほど、とつい苦笑がもれる。その光景が目に浮かぶようだった。
「持ち込みオッケーで、格安の朝食付き。いいホテルっしょ?」
「有料かよ、ケチくせえ」
「そこも察してよ」
 ただ甘やかすのは主義じゃねーの、と笑って三井の額へキスを落とした水戸は、二歳も年下であることを除くと、たぶん、この世で一番三井の好みのタイプにぴったりくる相手だった。ロマンチックな言い方をすれば、運命の相手というやつ。言葉を選ばずに言えば、割れ鍋に綴じ蓋、というやつである。

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