SD

1

 それは文字通り、落っこちてきた、という感じだった。 恋に落ちるとか落とされるとかいうのではなく、向こうが唐突に三井のところへ落っこちてきたのだ。「――で、今日の三井センパイは?」 と、藤真が笑う。 明日から短い年末休暇へ入ることもあって、…

2

■ 入口近くの道路端で先に降ろしてもらい、駐車場へ向かった流川を置いて先に事務局へ顔を出すと、年の瀬というのに常駐のスタッフが数名事務作業に励んでいた。流川が加入してからというもの、例年にない注目度に比例して問い合わせや取材の打診などが引き…

3

■ いまだアルコールによる倦怠感を残した重い体に上着を引っ掛け、ジムのロッカー室を出る。 体を動かせば気分もあがるかと思ったのだが、結局、かえっていろいろと考え込んでしまった。 こういうところがいけないのだ。それは、三井自身が一番よく分かっ…

1

 校内に二つある公衆電話のうち、職員室の入り口に置かれている一台は頻繁に誰かが利用しているところを見るのだが、こちらの一台は滅多に使われている気配がない。 一階にある保健室を通り過ぎて少し行くと、音楽室や家庭科室などが入った特別教室棟のどん…

2

 汗でほどけた赤色のリーゼントを苦笑混じりに眺めていると、三井と桜木のほかには誰もいない放課後の部室に、突然の来訪者があった。「……ありゃ」 と、そう言って慌てたように口をつぐんだのは、水戸だ。――水戸洋平。桜木の親友で、恐ろしく喧嘩の強い…

3

 梅雨も明けたというのに空は朝からずっとぐずついていて、一度は辞めると言ったくせになかなか抜けきらない喫煙癖のためにちょうどよい場所を探していた水戸は、ひと気のない特別教室棟の、いまは使われていない三階の第二音楽室へ入った。 積み上げられた…

4

 三井がはじめて男を好きになったのは、中学二年生の夏のことだった。 男は皆からコーチと呼ばれていた。卒業生らしく、東京の大学を終わって教員免許を取り、けれど採用試験にはなかなか受からずにいたらしかった。それで、ツテを頼りに母校のバスケットボ…